日付が変わる直前に晩酌をする雲雀の元へと足を運べば、驚いた表情を隠しもせずに注視される。
来るとは思わなかったのか、それとも幻術か何かだと思っているのか。
どちらにせよ、そんなことはどうでもいい。というよりも、差し迫っているのだからそれどころではないという方が正しい。
部屋の隅にある古めかしい置き時計はもうすぐ十二時を指そうとしている。
目を細めて細微まで観察する様は見ていて愉快だけれど、少し変わったことをしただけでいちいち疑わなければならない程自身の感覚に自信が無いのかと突いてやりたくなる。
元々感覚で戦うことの方が多いくせに、こういう所だけ疑り深いのはどうしてだか。
「どういうこと?」
「理由を言わないといけない事かい?」
「質問してるのは僕だ」
「僕が素直に答えるとでも?」
「…思わない」
不満そうに小さく息をつく雲雀に思わず口角が上がる。
すぐ不機嫌になるところも中学生の頃から変わらない。
変わったところなんて数えるほどでしかない筈だ。
把握してしまっている自身に嫌気が差すけれど、今日はそれも無視しておく。
「予測はついてるんだろう? なら良いじゃないか」
「…そういう問題じゃないよ」
「何、不満なの?」
「一応ね」
脇息に凭れたまま憮然とした表情を隠しもしない雲雀に近づき、膝を折って目線を合わせる。
微塵も視線を逸らさない事も、中学生の頃から変わらない。
良くも悪くも真っ直ぐが雲雀の取り柄だと言って良いだろう。
チャコールグレイの瞳は真意を問うように見つめてくるけれど、今日くらいははぐらかさないで居てあげようか。
「誕生日だなんて一言も言わなかったくせに」
「言ったら何かくれたの?」
「まさか。プレゼントをねだる歳でもないだろう?」
「貴方から貰えるならねだってもいいかな」
「おめでたい頭」
「誕生日だからね」
途端に嬉しそうにするんだから可愛いものだ。
ただ、言葉とは裏腹に行動は全く可愛さの欠片も無いけれど。なんだこの手は。体勢は。
さっきまで大儀そうに脇息に凭れていたくせに、俊敏な動きで組み敷かれて仕舞った。
普段なら抵抗の一つや二つしてやるところだけど、今日くらいはおとなしくしておいてやろう。
マグロがお好みじゃないことは知ってるけれど、そこまで応えてやるつもりはない。
此処までしてやってるんだ、それ以上すればつけあがってとんでもない要求をしてくるに決まってる。
「それじゃあ、お好きにどうぞ?」
「ふふ、いただきます」
覆い被さる雲雀の首に腕を回して引き寄せ、挑発するように唇を合わせる。
それだけで簡単に煽られるんだから、元気なものだ。どちらも大差ない。
天井の格子を見上げたところでふと肝心な事を伝えてないことに気付く。
言わなければ後でそれを理由にしつこく責め立てられることぐらいは簡単に予測出来る。
唇が触れる距離のまま、欲に濡れた瞳を覗き込む。
「誕生日おめでとう、恭弥」
「ッ、ありがとう」
動揺したのは祝いの言葉が雲雀の母国語だったからか、はたまた名前で呼んだからか、それとも両方か。
どれでも構わない。そう言う代わりに今度は深く唇を重ねた。
ひば誕!2012