嫌よ嫌よも好きのうち。なんて言葉は、当てはまらないことが大半だ。
そりゃあそうだろうと納得いく。嫌なもんは嫌だ、まして好きなんて真逆なことあるわけない。
の、だけども。けども。
(こればっかりは、わかんないんだよなー)
部屋の隅に作った応接セット。地元の家具職人が腕によりを掛けて作ったふっかふかなソファに座ってる人物の、それはもう特徴的な後頭部を眺めつつ、ぼんやりと考える。
仲が良いのか悪いのかと聞かれれば、これ以上ないほどの悪い、筈。
口より先に手が出るタイプと、おちょくることに全力を注ぐタイプがガチンコなんてすりゃ修繕費の心配どころかアジトの存続が危ぶまれる位には。
けどまあ、10年前よりはマシになった、とは思う。慣れとか、諦めとかじゃなくて、多分10年分大人になったから。
マシなだけで、良くなったわけじゃないけど。
空調でふわふわ揺れる後頭部から目をそらして視線を落とせば請求書の桁は数えるのも嫌な額を誇っていて。
これ、いつのかなぁ。先月分まとめてだといいなぁ、畜生なんで俺が払うんだよ。そう思っても、口には出せない。
口にしたら最後額が増えるだけだ。それは死ぬ気で回避したい所存。
「なぁ骸ー。おまえ毎回ヒバリさんに喧嘩売るのやめようよー」
「はぁ? 僕は売られてる側ですが」
「買うなよ! やめてアジトが壊れるからやめて!」
必死な俺にあきれたような骸の視線が突き刺さる。
ものすごく残念な物を見るような目なんて向けられたけど、苛立ってもらんない。
こっちはそれこそ必死だ。今なら何も使わずに死ぬ気になれる気がする。
そんな俺を3秒見て、露骨な溜息を吐いて。それから視線を逸らして。
お、これはもしや、なんてほんの僅かに期待したら。
「嫌ですよ、彼をからかうの楽しいので当分やめる気なんてありません」
「その当分で10年経ちましたが! まだ飽きてくれませんか!」
「彼、おもしろいので無理です」
「お願い飽きてぇ!」
期待させるだけさせやがって! なんて言っても無駄だろうし、こいつ多分俺で遊ぶの楽しいと思ってるからきっと意味ない。
でもそれ以上に。こいつはヒバリさんで遊ぶのが楽しいとか思ってる。
常人じゃあ考えられないけど、そんな怖いこと平然とやってのけるんだからさすが骸だなぁとか、ちょっと感心したりはする。
いやぁ、でもやめて欲しいんだけどね? 修繕費洒落にならないからね? そんなん、聞き入れちゃくれないだろうけど。
にやにや。明らか嫌な予感しかしない笑みから逃げるように視線を落とせば、とんでもない額の請求書が見えて、絶望するしかない。
こんにゃろ、って意味を込めてもう一回骸を睨もうと顔を上げたとき、扉がいきなり開いて。
「沢田、六道の居場所―…」
「やあ雲雀君。僕を探してくれるなんて光栄ですね」
「…なんだ、ここに居たの。じゃあ殺し合いしようか」
「やめてぇえええええ!!!」
入ってきたヒバリさんは、骸を視認するや否やトンファーを構えて一気に好戦的になって。
それに相対するように骸も三叉槍を取り出して。
執務室の破壊だけは回避せにゃぁ、なんて半分涙目でグローブと死ぬ気丸を手に取る。けど、それより早く。
「それもプレゼントで構いませんが、他のも受け取ってくださいね?」
そう言うが早いか、ヒバリさんの襟を掴んだ骸が雲雀さんに重なる。
今、俺の目の前で何が起こってる、んです?
混乱する俺を余所に、ぴちゃり、なんて水音が聞こえて。
「ふぉあああ!!! おま、骸、おま!!!」
その水音が何を意味するか、知らないほど子どもでもないし、どういう状況下もすぐ想像できる。
創造できても、理解は無理だ。なに、どういうこと? 骸と、ヒバリさんが、何?
混乱する俺の存在なんか無視して、襟を掴んでいた手をヒバリさんの後頭部に回して、固定して。
ヒバリさんが抵抗しないのは可笑しいだろ、って思ってそっと見れば、片方のトンファーは床に落ちてた。
未だに握っている方の手は、骸が掴んで動きを阻止してるから、だからヒバリさんは大人しいのかなんて。
思ってたら、ヒバリさんが思いっきりそのトンファーを投げる。
それから、意地で骸を振り払って。
「…っは、いきなり何!?」
酸欠になりかけたのか、ほんの僅かに目元を染めたヒバリさんが骸を睨む。
そんな姿に少しだけどきどきしたけど、今はそれどころじゃない。
殺気をぶわりと膨らませたヒバリさんをなだめようにも今は何やってもきっと裏目に出る。
だから、大人しく動向を見守るしかないか、なんてはらはらしつつ二人を見つめた。
「ですから、お祝いに。あぁ、やはりあれだけじゃ足りないですか?」
「っ咬み殺す…ッ!」
「クフフッ、続きは夜にでも」
そう言ってヒバリさんの耳元に息を吹きかけた骸に、思わず息を呑む、けどそれよりも。
されたヒバリさんが、耳まで真っ赤にして固まってるから、なんていうか俺まで固まる。
なに? 本当なに? どこから骸の幻術? 今俺の前にいるの、ヒバリさん? 本物? 嘘だろ?
吹きかけられた耳を押さえて、拳を振るわせて。ほんのり赤い目元で骸を睨んだヒバリさんは、素早くトンファーを拾い上げて。
「今ここで息の根を止めてあげるよ…」
途端にぶわりって膨らんだ紫の炎をみても、なんていうかもう怖いと思えない。
骸だって余裕そうにクフクフ笑って、いつの間にか三叉槍仕舞ってるし。
ヒバリさん、それ、照れ隠しっていうやつ、じゃあありませんか、もしかして。
いつの間にそういう仲になったのか知らないけど、でも、知りたくもなかったかなぁ、なんて思う。
俺、本当はヒバリさんにお誕生日おめでとうございますって、いつもありがとうございますって言おうと思ってたのになぁ。
そんなこと伝える余裕なんて一切ない俺は、今のヒバリさんは怖くないけど、来月の請求書怖いって明後日の方向へと思考を飛ばした。
(多分、驚きすぎて俺の息の根が先に止まる気が、する)
ボンゴレは今日も平和です。きっと。
2014年ひば誕!ということで、わかりにくいけども委員長おめでとうございます